OJTとは?導入・実施する上でのポイントを具体例から解説!
導入を検討している方の中には、OJT制度がどのようなものなのかを改めて詳しく知りたいと考えられている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、「OJT制度とはどのようなものなのか」「メリット・デメリット」「進め方」「向いていない業務」などを解説しています。OJTに関する知識を深めたい方はぜひ参考にしてください。
OJTとは
OJTとは、人材育成方法の一つで、On the Job Trainingの略です。OJTを重視する企業は多く、厚生労働省の令和3年度「能力開発基本調査」では、正社員または正社員以外に対して計画的なOJTを実施した企業は、全体の61.8%でした。
OJTのおおまかな特徴は以下になります。
やり方 | 実際の業務を実施して必要なスキルを身につける |
人数 | トレーナーと受け手が1対1もしくは少人数 |
講師 | 先輩社員 |
場所 | 実際の現場にて行う |
OJTを実施する際の順序はこちらです。
- 1.やってみせる(Show)
- 2.説明する(Tell)
- 3.やらせてみる(Do)
- 4.確認・追加指導(Check)
まずトレーナーが実際の業務をやってみせ、次に受け手に説明をします。そのあと受け手に実際にやらせてみて、その様子をトレーナがチェックし、追加指導するような形になります。
OJTには、「企業や人事」「トレーナー」「受け手」の三者ともにメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。
企業や人事にとってのOJTのメリットとしては、以下の2つがあげられます。
- 費用を抑えられる
- 個人研修のため効率的に研修できる
研修を行うと、講師代や教材費、会場費や設備費などさまざまな費用がかかります。しかし、OJTで人材育成する場合には、これらの費用がかかりません。
また人事は、受け手が研修から実務に移ったときに感じやすい「研修と現場でのズレ」の解消を課題としている場合が多いです。けれども、実践を通して指導を行うOJTならば、そのようなズレを感じさせずにスキルの習得を促せます。
OJTで指導する立場となるトレーナーには、以下の2つのメリットがあります。
- 教える事で自身の理解も深まる
- 部下とのコミュニケーションの機会を得る
部下に教えると、トレーナー自身も業務についての理解が深くなります。人に伝わりやすい話し方やコミュニケーション能力、指導力など管理職に必要な力が身につくでしょう。
またOJTは、トレーナーと受け手が継続的に関わりを持ち続けるので、深い交流が生まれやすいです。ここで生まれた良好な信頼関係は、そのあとの業務でも役立ちます。
OJTで指導される受け手は、研修やセミナーなどで学ぶ場合に比べて以下のようなメリットが受けられます。
- 実務を通しながら学べるため理解度が高まる
- 分からない部分を聞きやすい
話を聞いたり、教材を読んだりするだけの研修は、インプット中心となり実践的なスキルがなかなか身につきません。
しかし、OJTは実際の業務を目にしてインプットしたあとに、実際に自分も実践に参加してアウトプットできるので、より早くスキルが定着します。
簡単な業務であれば、短い期間で即戦力として活躍できるようになるでしょう。また、集団での研修だと、受け手はわからない部分があっても質問をためらいがちです。OJTは気軽に質問ができ、苦手な部分はゆっくり教えてもらえます。
利点の多いOJTにも、デメリットはあります。ここでは、「企業や人事」「トレーナー」「受け手」が受けるデメリットについて解説していきます。
企業や人事におけるOJTのデメリットは以下の2つです。
- 体型的な教育には向いていない
- 研修内容の把握が難しい
体系的な教育とは、受け手が組織やグループ全体の秩序や役割を理解し、一つひとつの業務がその中でどんな意味を持っているのかを認識してもらうための教育です。
OJTは一つひとつの作業から学んでいくため、なかなか全体像が見えません。目の前の業務はこなせるようになっても、全体から見てその業務が意味するものまでは理解しにくく、受け手が広い視野を持てるよう促すのが難しいです。
また、一般的に企業や人事では研修でどのような指導がおこなわれたのかを確認したいと考えます。しかし、OJTはトレーナーと受け手だけで指導が進んでいくので、どれくらい進んだのかを把握するのが難しいです。
OJTのトレーナーのデメリットは「教える側の負担が大きく、時間をとられる」ことです。トレーナーの多くは、自分の業務を抱えた状態で、受け手への指導をおこないます。
通常の業務にプラスして、指導をしなければならないため、必然的に業務負荷が高くなります。指導がスムーズに進まない場合や指導に慣れていない場合、受け手と相性がよくない場合には、大きな精神的な負荷もかかるでしょう。
OJTで指導を受ける場合のデメリットは「教育の質や内容がトレーナーに依存する」ことです。
トレーナーが指導に慣れている場合、慣れていない場合、もしくはトレーナーが受け持っている業務のキャパシティがどれくらいかによっても、指導の質は変わってしまいます。
また、同じ業務でも人によってやり方が違い、実際の業務で混乱を招くケースも考えられます。どのトレーナーに担当してもらったかで、質や内容が全く異なってしまうのは、受け手にとってデメリットといえるでしょう。
同じく人材の育成方法の一つであるOFF JT(OFF the Job Training)は、座学による研修をおこない、基礎的な知識を受け手に教育します。
OJTとの違いを表にしたので、双方の違いをチェックしてみてください。
種類 | OJT | OFF JT |
指導方法 | 実務 | 座学 |
指導時間 | 通常業務の中で実施 | 業務から離れて時間を設ける |
指導場所 | 現場 | 研修センターや講習室 |
学べる内容 | 実務のノウハウ | 業務に関する基礎知識 |
講師 | 先輩社員 | 外部講師・人材開発部の職員 |
OJTと違い、OFFJTによる指導を受けただけで、実際の業務をスムーズにおこなえるようになるのは難しいでしょう。しかし、現場ではわからない業界全体の情報や、企業全体の体系的な知識を、集中して習得できます。
OJT導入時の具体的な進め方
OJT導入時には、しっかりとした計画を立てる必要があります。OJTのデメリットからもわかるとおり、OJTは状況によってムラが生じやすく、場当たり的な研修になりやすい側面があるからです。
ここでは、導入時にどのような部分にポイントをおいて進めればよいかをチェックしていきましょう。
OJT実施前にチェックしておきたいポイントは、以下になります。
- OJT期間での目標を設定
- 実施計画の作成
- OFFJTの内容や受け手の情報の共有
- トレーナーの選出
- マニュアルの準備
それぞれについて詳しく解説します。
OJTを成功させるためには、目標の設定が重要です。連携部門と共有して、理想の人材像を明確にしましょう。「どのようなマインドをもたせたいか」、「どのような業務ができる人材を育成したいのか」これらを具体的にあげておくと、指導の道筋が立てやすいです。
OJTの実施期間を設定したら、スキル表や工程表などを作成し、マイルストーンを設けます。マイルストーンとは、計画がどこまで進んでいるかを確認するためのポイントです。マイルストーンに到達するまでの期間も設定しておきましょう。
基本的にはトレーナーや受け手のペースで進められるOJTですが、マイルストーンを設置すれば、全体の進捗状況をある程度揃えられます。
OJTで人材育成する場合でも、デメリットを補うためにOFF JTを組み合わせる場合が多いです。
そこで、研修内容や受け手の情報は、事前に人事と現場で共有しておきましょう。研修内容や受け手についての情報が現場に来ていれば、OJTでどのような指導を行うべきか決めておけます。
OJTを導入する際には、トレーナーの選出やトレーナーへの事前指導、面談も必要です。選出時には、性格的な向き不向きや、現在抱えている業務の状況などを考慮する必要があります。
OJT研修をおこない、指導の仕方の習得を促したり、トレーナーがもつ不安の解消に努めたりするのもOJTを成功させるために必要な事柄です。
トレーナーによって指導のバラつきがおこりやすいOJTには、「受け手への業務に対するマニュアル」と、トレーナーへの「教育に関するマニュアル」の準備が必須です。
しっかりとしたマニュアルがあれば、トレーナーによって教わる内容が異なってしまったり、トレーナーが指導方針で迷ったりするケースも少なくなるでしょう。
OJT実施中には、以下のポイントをチェックしましょう。
- トレーナーとチーム間での情報共有
- 定期的にコミュニケーションできる機会を確保
それぞれについて詳しく解説します。
OJTの実施においては、現場のチームは指導をトレーナー任せにせず、指導内容や進捗状況を共有する必要があります。もし足りていない部分があれば、どのように指導をしたらよいかを話し合う必要もあります。
また、通常業務をおこないながらの指導では、トレーナーに負荷がかかりやすいので、都度無理が生じていないか確認もしなければなりません。もし問題が生じている場合には、チーム全体でフォローしましょう。
OJTは、トレーナーと受け手の関係が成功と大きく関係します。そこで、中間面談や定期的な1on1の実施を推奨します。
業務以外の場面で、業務のフォローバックをしたり、受け手の不安や悩みを聞いたりしてコミュニケーションをとれば、お互いの考えをすり合わせられるほか、関係の向上にもつながるでしょう。
OJT実施後には、以下のポイントをチェックしましょう。
- OJTの成果を見える化する
- 目標の達成度に応じたフィードバック
次の教育計画の立案
ここでは、それぞれについて詳しく解説します。
その場しのぎのOJTをおこなっていると「受け手がどれくらい成長したのか?」「目標は達成できたのか?」などがあやふやになってしまいます。
OJT実施する際には、定量的なデータをとり、成果を見える形で確認することが重要です。
OJTの実施後には、始めるときに作成した実施計画に実際の達成度をおとしこみましょう。各部門との情報共有も必須です。
そうすれば、各部門で「どの程度までの仕事をまかせられるのか」「今後行うべき指導は何なのか」がわかり、今後の業務に活かせます。
一つのOJTの期間が過ぎたら、次の教育計画に進みます。OJTのフィードバックが終わったら、指導方法の改善点を洗い出し、今後の教育・成長方針を設定しましょう。
OJTに向いている/向いていない業務の具体例
OJTは効果的な育成方法ではありますが、向いている業務と向いていない業務があります。一つの方法にこだわらず、業務の傾向を見極めて人材育成方法を決めなければなりません。
OJTに向いているのは「ルールが確立されていて、イレギュラーが発生しにくい」業務です。こういった業務は、頭だけで考えるよりも、実際に体験した方が身につきやすい傾向にあります。
営業には、エンジニアなどの技術職と同じように「営業の技術」が必要です。トレーナーと営業に同行すれば、実際の営業の流れがわかります。現場でしか経験できない事柄もスキル習得に大きく貢献します。
また、営業先が得意先である場合には、受け手と顧客の信頼関係の構築にも役立つでしょう。
定期点検作業のスキルを身につけるに場合には、話を聞いたり、写真や動画などを見たりするだけでは、情報が足りません。実際にその場へ行き、点検するものを直接見る行動が重要です。
目の前でトレーナーが点検業務をおこなっている様子を見て、その場で自分もやってみれば、座学で知識を身につける何倍ものスピードでスキルを身につけられるでしょう。
事務作業はパターン化されている業務が多いため、トレーナーによる指導内容のムラがおこりにくいといえます。
企業によっては細かいルールが設けられている場合もあるので、実際に体験しながら覚えていくのが業務習得の近道になるでしょう。
向いていないのは「イレギュラーが発生しやすい」業務です。一つひとつの業務がイレギュラーだと、すべてのパターンを受け手に教えるのは困難です。具体例としては「新規プロジェクト」や「研究・開発」などがあげられます。
新規プロジェクトは、新しいものを作ろうとするほど手探りな部分が増えます。業界の長年の経験も重要となりますが、このような経験は実務の中では伝えにくいです。
受け手は、むしろOFF JTなどで体系的な知識を学び、さまざまなアイデアを出せるようになるようになる必要があります。
研究や開発は、必要な知識が膨大なため、OFFJTによる事前知識がないと業務を行うのは難しいです。十分な知識を取り入れたあとであれば、OJTによる指導も可能となります。
OJTを実施するポイント
OJTを成功させるためには、「進め方」「教える側が意識すること」「人事との連携」に注目する必要があります。これらの事柄を押さえておけば、デメリットを感じずに、効率的に受け手に業務スキルを身につけてもらえるでしょう。
指導をスムーズに進めるポイントは、以下になります。
- PDCAを基本にする
- 教わる側の情報を共有する
- トレーナーだけに任せきらない
ここからは、これらについて詳しく解説していきます。
PDCAのサイクルの考え方は指導において大変役に立ちます。
PDCAとは、次のような順序でおこなわれるマネジメント手法で、OJTに当てはめるとこのようになります。
1.Plan(計画) | どのようなスキルをいつまでに習得するかを計画する |
2.Do(実施) | 実際に業務をおこなう |
3.Check(評価) | トレーナーに実務の評価をしてもらう |
4.Action(改善) | トレーナーと改善点について話し合い、次のプランを立てる |
以上を繰り返しおこない続けて、指導を進めていきます。短期間で行う業務習得計画を練り、それを実行して、評価、改善につなげ、そして次のターンを実行していきましょう。
OJTを成功させるためには、情報の共有が不可欠です。まずは、人事から教わる側の情報をトレーナーに提示し、トレーナーはどのような指導をおこなっていくべきか検討する必要があります。
実際に指導をおこなったあとは、身につけたスキルを業務で最大限に活かせるように、教わる側のスキルがどの程度まで高くなったかを、チームで共有しなくてはなりません。
人材不足に陥っている企業でよくありがちなのは、指導をトレーナーだけに任せきってしまうケースです。
トレーナーだけに人材育成を任せきってしまうと、トレーナーのキャパシティがオーバーしてしまい業務の遅延や停滞、または受け手の放置にもつながります。
チームで育成する意識を持って、トレーナーの負担を軽減していきましょう。
教える側が意識したいポイントは、以下の3つです。
- コーチング>ティーチング
- オープンクエスチョン
- ストレッチ目標
これらに気をつければ、受け手が「言われた業務だけをやる人材」ではなく「進んで業務をおこなえる人材」と成長しやすくなります。
人材育成の手法には、「コーチング」と「ティーチング」があります。どちらも重要で、使い分ける必要がありますが、OJTを行う場合には、コーチングに重きを置くとよいでしょう。
コーチングは答えを教えるのではなく、経験や問いを重ねて答えを引き出すやり方です。自分の中から出てきた答えに人は納得しやすく、後々まで残りやすいです。
一方でティーチングは、答えをトレーナーが受け手に教えます。受け手は答えを模索しなくてもよく短時間で知識を得られる反面、自分で考える力を育てられません。
受け手に質問をする場面では、YES/NOで答えられない「オープンクエスチョン」をしましょう。オープンクエスチョンは自由な回答が求められるため、受け手の考える力の育成に役立ちます。
また、業務に関する悩みを聞く場合でも、オープンクエスチョンを使用すれば、受け手の本心を聞き出しやすくなります。
ストレッチ目標とは、「少し背伸びをすれば届く位置」に目標を設置する方法です。簡単過ぎる目標や難し過ぎる目標は、挑戦する人の意欲を削いでしまいます。少し頑張れば届きそうな目標を設定していくのがポイントです。
目標設定が難しいので、トレーナーは受け手の能力をしっかりと見極める必要があります。
OJTを成功させるには、現場と人事との連携が欠かせません。人事との連携がとれた人材育成をするために、以下の実施を推奨します。
- OFFJTと組み合わせる
- オンラインツールの整備
これらを実施すれば、現場の負担を減らせるでしょう。
OJTとOFF JTとを組み合わせると、育成の効果が上がります。例えば、OJTで難しいとされる体系的な教育については研修やセミナーなどを利用し、トレーナーには実践的なスキル習得のみを任せるなど、双方の利点の組み合わせを意識しましょう。
オンラインツールを取り入れれば、受け手はトレーナー以外に人材育成担当から日常的に指導を受けられます。Zoomなどのツールを導入して、コミュニケーションを取りやすい環境を整えましょう。
研修をオンラインツールでおこなえるようにすれば、業務後の時間などを使って短時間のOFF JTを実施でき、人事と現場の組み合わせによるより細やかな指導が可能となります。
OJT以外の教育方法
OJTやOFF JT以外にも、新入社員の指導やサポートを先輩社員が行う「エルダー制度」や新入社員に定期的な面談などコミュニケーションをとり、悩みや疑問点を聞く「メンター制度」などがあります。
また、OJTとよく似た教育方法で「OJD」と呼ばれる方法もあります。実際の業務を通して必要なスキルを学ぶ点ではOJTと同じですが、OJDは、OJTのように目の前の業務ではなく、将来必要となる能力やマネジメント能力などを身につけるための方法です。
教育方法にはそれぞれ意味があり、どれが一番優れていると順位をつけられるようなものではありません。企業がおこなっている業務や状況などに合わせて、複数の方法を組み合わせて教育を行う必要があります。
人材開発には、「正しい目標設定」や「受け手のモチベーション管理」「トレーナーの育成スキルの向上」「よりよい育成制度」など、さまざまな項目が適切におこなわれる必要があります。
優れた人材を育成したいと考えるなら、企業はバランスのとれた人材育成の環境づくりに力を注がなくてはなりません。
まとめ
OJTは、実践を通して業務に必要なスキルを身につけてもらう人材育成方法です。企業・トレーナー・受け手にとってメリットがある優れた方法として知られています。
しかし、ただトレーナーに指導を任せるだけでは、効果的な人材育成は望めません。また、OJTがすべての業務に対して有効なわけでもなく、人材育成に必要な事柄を網羅できるわけでもありません。
よりよい人材育成環境を整えるには、OJTに必要とされるポイントを押さえたり、OFF JTやエルダー制度、メンター制度、OJD制度などを組み合わせたりする必要があります。
会社全体でよりよい人材を育てるべく、各部門が協力しあう体制が必要不可欠です。
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