OJTを成功させる、受ける側とトレーナーが意識する4つのポイントを解説!
合理的かつ実践的な社員教育として広く導入されているOJTですが、「OJTを受ける側」と「トレーナー(OJT教育担当者)」との価値観の違いや個性によって成果はさまざま、必ずしも成功が約束されているわけではありません。OJTを成功させるためには、それぞれの現状認識と、相手の立場への想像力が必要です。
この記事では、OJTを受ける側とトレーナー(OJT教育担当者)、それぞれの視点から問題点をピックアップし、解決への手掛かりを示します。
OJTとは
OJTとは「On The Job Training」の略語であり、直訳すると「仕事のうえで練習する」となります。つまり、仕事の実践を通して知識や技術を教え導く社員教育です。
OJTには「特別な時間やコストを必要としない」「短期間で効率よく成果を上げやすい」などのメリットがあるため、多くの企業が導入しています。
その一方で、トレーナーとOJTを受ける側とのジェネレーションギャップや、それぞれのパーソナリティによって成果が左右されてしまう問題点が指摘されています。
OJTについての詳細は、下記記事をご参照ください。
OJTを受ける側が「教わり上手」になる4つの方法
OJTを受ける側の心情を察するに、期待と不安、野心と安心、さまざまな思惑と感情が入り乱れ、緊張感はピークに達していると思われます。そのため、普段なら覚えられることでも記憶があやふやだったり、簡単にこなせるはずの仕事を難しく考え込んだりしているのではないでしょうか。
結果の出せない自分に苛立ち心身に不調をきたしたり、周囲の問題点をあげつらったりする前に、自分に改善できるところがないか探してみましょう。
「教わり上手」になったら、OJT成功の確率が格段にアップします。まずは受ける側の4つのチェックポイントからアプローチします。
初めは優しい先輩社員やトレーナーでも、何度も同じ指導をしているうちに呆れかえり、ともすれば感情的にならないとも限りません。たとえ表面に出ないまでも雰囲気で伝わる失望や嫌悪感は双方に溝を作り、OJTの妨げとなってしまうでしょう。
また、OJTを受ける側が、繰り返される同じ指示に辟易し、仕事が嫌になったり自分を責めてますます能力を発揮できなくなったりするケースもあります。
同じことを言われるのは、言われたことができていない、つまり忘れているからに他なりません。
記憶力には個人差があり、小耳に挟んだだけでずっと覚えていられる人もいれば、何度聞いても覚えられない人もいます。なおかつ、何があるかわからない現実世界、更新され続ける大量の情報に翻弄され、ひょんなトラブルやアクシデントに記憶が飛ぶこともあるでしょう。
記憶力の過信は禁物です。指導をしてもらう際は、念のためメモを取っておきましょう。PCやスマホに書き込むも良し、ポケットサイズのメモ帳に鉛筆書きもよいでしょう。タイピングや文字書きによるひと手間と、書かれた文字を眺める行為が、記憶をより深く鮮明にします。
人間の情報収集力は、視覚からの影響が9割近くを占めると言われます。耳で聞いたことを文字にして目で眺め、手足を使って実践する、その繰り返しこそ、スキルアップの近道です。
トレーナーにも自分の仕事があります。それでも限られた時間の中でやり繰りし、自分の仕事の成果とOJTの成功を求められます。なかなか仕事に馴染めない新人に対し、どうすれば仕事を覚えやすいかアイディアを練り、配慮しながら、時間外にもさまざまな準備をしてくれているのではないでしょうか。
社会とは人との関わりそのものです。自分が相手の立場のとき、自分だったらどう思うか、どうするかを想像してみましょう。家で待つ家族のいる方、一人暮らしの方、それぞれのトレーナーの時間が、あなたのために用いられています。
トレーナーも数年前はOJTを受ける側でした。そこでしっかり学びスキルを身につけ、キャリアを積んできたからこそ、今、あなたに教える立場となったのです。過去に学んだスキルに、トレーナー自身の、艱難辛苦を乗り越えてきた経験が加味されます。
そう考えると、一言一句、おろそかにはできないはずです。
「できない」理由のほとんどは「知らない」からです。知ってさえいればできます。「できない」の言葉の中に自分を押し込めて卑下してしまう前に、知らない事案・手順の一つひとつを検証し、トレーナーに尋ねてみましょう。
トレーナーからヒントや答えを提示してもらい、一緒に一つずつクリアしていけば、自ずとゴールに辿り着けます。初めのうちは時間がかかるかも知れません。でもそのうちに先輩社員や教えてくれるトレーナーと同等に、それ以上に早く正確に仕事をこなせるようになるでしょう。それが若さであり、あなたの可能性です。
ただし、置かれる環境や状況は毎回違うかも知れません。そして、結果を出せない日もあるでしょう。けれどそれは経験と呼ばれ、あなたのスキルを力強く支えてくれる礎となります。やがてあなたがOJTのトレーナーとなり新入社員に語れる日まで、あなたをしっかりと支えてくれます。
OJTトレーナーの大声でまくし立てた言葉で、あなたが傷ついたとすれば、その真意を探る必要があります。
似て非なる言葉の多い日本語ですが、前後関係などからしっかり検証してみましょう。
自らが感情的にならないのはもちろん、OJTのトレーナーが感情的であるかどうかの判別は重要です。なぜなら、感情的なしこりはなかなか消せないからです。傷ついた人間関係をどう修復すればよいかわからないのは、何も新入社員に限りません。
心ないひと言で、取り返しのつかない事態を招いてしまうケースは枚挙に暇がなく、育った時代や環境によって言葉の受け取り方も変わってきます。
前後関係から検証し、誠意と情熱を感じたら、誤った言葉の訂正を求めましょう。
けれども、悪意や敵意を感じたら、上司に相談し改善を求めるか、思い切った行動が必要になります。
客観性を伴い公正な評価といわれる批評に対し、批判はネガティブなイメージがあります。けれども、批判は本来は「批評し判定する」という意味です。
ただし、主観をともなうため、どうしてもミスや誤りの指摘が多くなります。それが今日の批判のイメージとして定着したと考えられます。
トレーナーの言葉が次のどれに当てはまるか検証してみるのもよいでしょう。
・叱っている
・怒っている
・批評している
・批判している
叱られたら素直に謝り改善の努力をし、怒られたら、その感情に対してそれこそ批判すべきです。
言葉はほんの数文字違うだけで意味合いが大きく異なり、性差や世代によって受け取り方も違います。そしてそれは今後も変容していくでしょう。
「あれ?」と思ったら尋ねましょう。新入社員の最初の仕事は「わからないことを聞く」です。
OJTの受け手に対してトレーナーが注意すべきポイント
生まれ育った時代による世代間の特性や価値観の違いは常につきまとい、新入社員が入るたびに「近頃の若者は」と言われてきました。戦後ベビーブームの団塊の世代からバブル世代の新人類、ゆとり・さとり世代も同じです。
トレーナー側からも、OJTの受け手への理解が必要でしょう。
注意すべき4つの問題点を掘り下げていきます。
若者の特性のひとつとしてとりわけ顕著なのが、ストレス耐性の低さです。
少子高齢化による競争力の低さや多様性の共存により、無理せずがんばらずとも幸せを感じながら生きられるようになってきました。その代償でもあるかのように、プレッシャーや叱責に耐えられず、心身の不調を訴えるケースが増えています。
しかし、ストレスによるメンタルヘルス障害は、実は若者に限った話ではありません。メンタルヘルス障害は40代から上昇傾向にあり、50代後半で最も多くなるとの報告もあります。
「若いから強いはず。耐えられるだろう」と前時代的な先入観を持ってしまうため、際立って多いように感じるのかも知れません。
また、ストレス耐性の低さは、ネガティブなレッテルを貼られがちですが、逆に繊細・鋭敏であるともいえます。変化に敏感なその感性は、やがて大きな戦力となるでしょう。
ストレス耐性を強くするには、成功体験の積み重ねが効果的です。少しずつ自信をつけさせ、繊細な若者に気付かれないよう巧妙に、かつ合理的に導きましょう。
新入社員、特に新卒の社員の場合、教えてもらって当たり前の学校環境から変わったばかりですから、指示待ちの受け身姿勢になりがちです。新人であるがゆえの緊張と謙虚さも作用し、なかなか積極的に行動できないのも無理はありません。
この受け身姿勢への打開策として、トレーナーが意識すべきは「ティーチング」から「コーチング」への転換です。
「ティーチング」の意味は教え導く、つまり「答え」や「ゴール」は指導者がすでに知っている前提で行われる指導方法です。トレーナーの豊かな知識と経験によって決められたゴールへ導くこの方法は、OJTの初期段階では有効です。
しかし、徐々に「コーチング」への転換を図らなければ、OJTを受ける側は学生時代と何ら変わらず受け身姿勢から脱皮できません。また、コミュニケーション方法が命令や指示などの一方通行に陥る危険性があります。
「コーチング」とは「答えを創り出すサポート」を意味します。つまり「答え」をこれから一緒に創造していく指導方法です。そしてその「答え」は、トレーナーではなく、OJTを受ける新入社員の中にあります。OJTを受ける新入社員の可能性、才能と言い換えてもよいでしょう。
トレーナー自身の知識と経験による「答え」と、外部情報による「答え」がサポーターとなり、OJTを受ける新入社員の才能を引き出し「答え」を創り出します。
「わからないことは何でも聞いて」とあらかじめ伝えておいたとしても、なかなか聞けるものではありません。「わからない」と言えずに仕事を続けた新入社員が、思わぬトラブルを引き起こしてしまうケースもあります。
OJTを受ける側が「わからない」と言えないのは何故でしょう。考えられる3つの理由を検証してみます。
新人らしい、もっともな理由です。ただでさえ忙しいのに、自分のために時間を割いていろいろ教えてくれていると思うと、それ以上時間を奪うわけにはいかないと考えるのも無理はありません。
普段から積極的にコミュニケーションを取り親密になってくると、それでも声をかけてくる可能性はあります。
あるいは、質問に答える特別な時間を設ける、日報やメール・LINEなどで気軽に応答できる態勢を整えるなどの対処法があります。
「わからない」自分を恥ずかしく思うのは、自分へのプライドと「できない奴だ」と思われたくない心理が働くからでしょう。
つまり「自分はできるはずだ。わかるはずだ」と思っています。OJTを受ける側が、自分の能力を信じ前向きに取り組もうとしているのです。少々のミスや質問の無礼は看過してもよいのではないでしょうか。
新人が恥ずかしがっているようであれば、「新人のうちは聞くことが仕事だ」と言ってあげましょう。
思いもよらぬ結果に呆然とし、どこでつまずいたか、何故失敗したか、もしかしたら自分がミスをしたことすら気づいていないケースがあります。
「わからない」がわからないわけですから質問さえできません。このような場合は、トレーナーからの積極的なアプローチが必要です。
まずは混乱を紐解いて整理してあげます。仕事のプロセスをメモに書き出していくと客観視できるので、答えを見つけやすいでしょう。
また、医者の問診のように「今あなたがわかっていることは何ですか」と尋ね、一つひとつ順を追っていくと、そこから「わからない」部分が浮き彫りになってきます。
OJTを通したトレーナーと受ける側の関係は先生と生徒のようなものであり、「教える」「教えられる」立場に分かれます。
最終的なゴールは「コーチング」による受ける側の才能の開花ですが、そこに至る前段階として「指示」そして「指導」が必要です。
「指示」とは具体的な指図や命令などの意、「指導」は目的に向かって教え導く意味があります。仕事上は適宜、指示を与えていく方が無駄なく効率よく進みます。
しかし、「受け身姿勢」の章で前述した通り、受ける側が「指示待ちの受け身」になってしまうと、それ以上の成長につながりません。「指示」から「指導」へ、そして「コーチング」へと、受ける側の成長に応じて指導方法もステップアップさせていくのが望ましいでしょう。
トレーナーは自分も仕事を抱えているため、OJTにつきっきりではいられません。忙しさにかまかけて、つい「指示」一辺倒になりがちなので注意が必要です。ある程度の育成計画を立てておくと、現状分析しやすいので適宜軌道修正ができます。
何よりも、OJTを受ける側の人間性や育った時代背景を理解してこそのトレーナーです。「教える」「伝える」だけでなく、「聞く」「学ぶ」姿勢も忘れずにいましょう。
まとめ
人は言葉ひとつで傷つき、あるいは再生します。「近頃の若者は」的な先入観や「できない」の思い込みは、その言葉の中に自分を押し込んでいるに過ぎません。言葉で括るために、かえって視野が狭くなっているのです。
OJTのトレーナーと受ける側、それぞれの立ち位置から見える景色は明らかに違います。その相違について、お互いに想像し語り合い、折り合いをつけながら、たっぷり時間をかけて成果を楽しみましょう。
視野を広げてお互いを理解し合えれば、OJTは成功します。
コメントを残す